第17章 folder.1
「絵、凄く上手いんですね」
「そうか?誰にも習ったこともねえんだけどな」
「えっ…ほんとですか?」
「ああ…親がこんな商売してるから部活も入れなかったしな…高校も行ってねえし」
「そうなんですか…でも独学でそこまでできるのは、凄い絵を書くことが好きなんですね」
「…まあな」
「好きこそものの上手なれといいます。ボンは才能が…」
ちょっと差し出がましいこと言ったかな…
「え?なんだよ」
「いえ、俺は絵なんか書いたら勉強しろって怒られたから…ボンがそうやって絵を描けるのは羨ましいです」
ボンは俺をじっと見た。
「あ、すいません。余計なこと言って…」
「いや…別にいいがな」
ザラザラとキャンバスに油絵の具を塗りつけている。
その音だけが部屋に響いていた。
時折、手を止めて全体を眺めてる。
部屋の両サイドには、作り付けの棚があって、そこには画材やらなにやらが積み上げてある。
電子レンジや、あれは…小さな陶器を焼く電気釜まである。
それになにやらフィギュアまで置いてある。
あれはボンが作ったものだろうか…
デザインが特殊で、市販品にはみえなかった。
窓から陽光がレースカーテン越しに柔らかく差し込んでいる。
ヤクザの家に来て、こんなに穏やかな時間が送れるとは思ってなかった。