第15章 落陽の夢
慌ただしく私物を返却され、あっという間に俺は塀の外に出された。
「…お世話になりました…」
「もう戻ってくるなよ」
杖を厚情で支給され、つきながら塀から離れた。
ゆっくり大通りを探して歩いていると、黒塗りの大きな車が俺の横に停まった。
不思議に思ってスモークの窓を見つめていたら、ドアが開いた。
そこから降りてきたのは、井ノ原だった。
「井ノ原…」
「遅くなりました…お勤め…ご苦労様でした」
深々と頭を一つ下げた。
車に乗り込むと、暖気で暑いくらいだった。
「ちょっと暖房効き過ぎじゃねえか…?」
「寒いかと思って…」
運転手に暖房を緩めるように言うと、井ノ原は座席に凭れた。
「…なんで手紙の返事もくれなかったんです…」
それには答えず窓の外を眺めた。
「行って欲しいところがある」
砂利を踏む音で目が覚めた。
車のシートに凭れながら、どうやら随分寝たらしい。
身体に大判のブランケットが掛けられていた。
乾いた喉に痰が絡む。
車はどうやら舗装されていない所を走っているようだ。
潮の匂いがする。
「…起きましたか…もうすぐです」
井ノ原の声がして窓の外を見ると、夕日が海に映っているのが見えた。
そしてそこには、小さな家があった。