第15章 落陽の夢
「1043号、出ろ」
「はい」
ガチャガチャと鍵の音がして、ギイっと鉄の扉が開いた。
足を引きずりながら、扉まで歩み寄ると、刑務官が俺の前に立った。
両手を拘束具で固定された。
「…なんですか…?」
「喋るな」
有無をいわさず、俺は部屋から出された。
長い廊下を歩いて行く。
あの時痛めた腿は、結局治ることがなかった。
足を引きずりながら、ゆっくり歩くことしかできない。
お蔭で刑務所内での作業は、比較的ラクなものを回されていた。
今じゃ、ミシンの腕は大したもんだと言われるほどだ。
長い廊下の終わりにある部屋に入れられた。
ここで拘束具は解かれた。
「え…?」
「1043号こと草彅剛、本日出所が決まった」
刑務官はつらつらと書類を読み上げるが、全く頭に入ってこなかった。
俺の刑期はまだ満了にもなってないはず。
途中から数えるのもばからしくなって、後何年残っているのかは正確にはわからない。
大体、身元引受と連絡なんて取ってないのに…
「どういう…」
「特赦だ。しかしこれは外では口外しないように」
それ以上、なにも聞き出すことができなかった。
P級(身体障害者の枠)で府中刑務所に入って10年になる。
現役警察官をあんなところで殺した俺は、凶悪犯として扱われるはずだった。
しかし、裁判は至って簡単に済んだ。
そして報道もされなかった。
一切が、握りつぶされた。
そう感じた。