第15章 落陽の夢
「相葉さん…」
和也の声が聞こえた。
それは、温かい母親のような声で…
振り返ると、雅紀の長いまつげを撫でていた。
暫くそうしていたかと思うと、今度は潤のベッドにやってきて同じように愛おしそうに顔を見つめた。
「潤…」
潤の目元に指をすべらせると、大事なものを触るように何度も何度も撫でた。
俺も雅紀の頬に触れた。
冷たい頬だった。
潤の頬に触れても、同じだった。
「…行こう、智…」
「ああ…」
指先に感じる、ほんの少しの体温。
ああ…
お前たちは生きてる。
生きてるんだ。
「じゃあな…潤…」
「じゃあな…雅紀…」
頬を包んだ手を、握られた気がした。
外に出ると、待ち構えていた連中に取り囲まれた。
それを松岡が追い払って、なんとか車まで戻ることができた。
「すまない…後は…」
「ああ…行けよ…智…」
「ありがとう…兄貴」
「行っちまえよ…」
車に乗り込む寸前、城島の声が聴こえた。
「ボンっ…連れて行ってくださいっ…」
松岡の顔を見て首を横に振ると、頷いてくれた。
振り返らず車に乗り込んで、和也が車を発進させた。
病院の門を出るとき、門内に歩いてくる女が居た。
「姐さん…」
和也が呟くと同時に、一瞬、目が合った。
白い…ワンピース…
あれは…俺の授業参観に着てきてくれた服
車を停めることはしなかった。
さようなら…
かあさん