第14章 啼き竜
「なにかのいたずらですわね」
そう言って妻は俺の顔を見て笑った。
「…え…?」
「だって、翔のお墓なんて…あの子、死んでないもの…」
「なにを言っているんだ…」
「今日は大学でお友達とご飯を食べてくるって言っていましたわよ…修よりもお兄ちゃんなのに、いつまでも子供で…」
「旦那様っ…もうっ…奥様を病院へ…!お願いします!」
「だめだっ…こんな時にっ…!」
わかっていた
妻は壊れきっている
それすらも、俺には寒々しく見える
女だから…
汚いから…
あの時、俺と一緒になって翔を罵倒したじゃないか。
それを全部俺のせいにするのか。
病院にも行かなかったのはおまえじゃないか。
「翔様のことだけじゃありません…最近じゃ、もうご自分のこともわからなくなることがあって…」
「…なんだと…?」
「旦那様…お願いします…もう、これ以上は…」
「なんのためにおまえを雇っている…なんとかしろっ…」
お手伝いは、妻の面倒を見させるために雇った。
もう15年、櫻井の家に仕えている。
翔が病院から消えてから、徐々におかしくなっていったからだ。
「私も奥様と同じ女です…だから、息子を喪った悲しみは…」
「うるさいっ…出て行けっ…!」
テーブルの灰皿を投げつけた。
「もう…俺にそいつを見せるな…!」
「旦那様っ…」
汚い…女は、汚い…