第14章 啼き竜
ロビーを出て行く後ろ姿を見送ると、ソファに腰掛けた。
「…ありゃ、とんでもねえバケモンになるな…」
佐野は俺よりも十期下だ。
なのに異例の出世を遂げた。
この人事が何を意味するのか…
総監から成田の処分を持ちかけられた時、佐野はまだ部長になったばかりだった。
しかし、今回の手腕を見ていると…
殆どの部員を既に手なづけているように思えた。
俺が動かなくても、すぐに成田を処分できたんだろう。
だが俺の顔を立ててくれた。
「感謝しないとな…ありがとよ」
できる後輩を持つと…
気苦労ばかりが増える気がする。
懐から携帯を取り出し、コールする。
電話コーナーまで歩きながら、暫く待つ。
しかし、留守電に変った。
「…もしもし…俺だ。今回のことは、おまえのところまで捜査が及ばないようにする…だから…」
がさりと音がしたかと思うと、声が聞こえた。
『遠藤さん?』
「ああ…今、大丈夫か?」
『ああ。時間だけはあるもんでね』
「そうか。まあ、あれだ。今回は草彅だけで済むようにするから」
『…そうか…助かるよ』
もっと…追いつめられてるかと思ったが、声は穏やかだった。
「いや…こっちも正直助かった。…今度、コーヒー奢るよ」
『…いつも…奢ってるよ…あんた』
「は…まあそうだな…」