第14章 啼き竜
ロビーに出ると、遠藤警視正が歩み寄ってきた。
「佐野」
「ああ…こんなところまで…ご苦労さまです。遠藤さん」
「すまねえな。おまえに出張らせて」
「いいんですよ。こちらは癌を取り除いて貰ったのでね…」
「まあ、な。でけえ癌だったな」
「暫くは、他の部員も大人しいでしょうよ」
「…やるなあ…佐野」
「やめてくださいよ…僕なんて」
「いいや…40代で公安のトップに立つ奴は、やっぱ違うんだな」
「皆様のお陰ですよ」
「え?」
「僕を押し上げてくださる皆様のご尽力のお陰です」
「へえ…そりゃ、まあ…」
遠藤警視正は顎に手を当てた。
「…総監に、伝えておく」
「…よろしくお伝え下さい」
一礼してロビーを出た。
やっぱり…あのおじさん、食わせ物だ。
ヤクザ使って、公安の癌を一掃した。
俺の力を見くびっていたんだろうが…
こんなことしなくても、成田のことはもうすぐ処分できそうだったのに…
「まあ、手間が省けたか…」
ロビーを出ると、寒風が吹いてくる。
車寄せまで歩くと、岡本が待っていた。
「お疲れ様でした」
「待たせた」
車に乗り込むと、助手席に山下が居た。
「やあ…もう帰ったのか」
「はい。もう…聞きましたよ。楽しそうなこと、やったんでしょ?」
メガネを上げると、微笑んだ。
「ああ…今夜は、いい酒が飲めそうだ」