第4章 傷だらけの翼
「智さん…」
松本の切ない声が耳を掠める。
「だめだ…やめろ…」
「智さん…好きです…」
「松本…」
「お願いです…今日はここで…」
「わかった…わかったから…離せ…」
松本は身体を離した。
「よかった…」
つぶやくと俺のスラックスを直して、ベルトを引きぬいた。
「今日はこのまま寝て下さい。着替えは誰かに取りにやらせますから…」
「ああ…」
軽々と俺を抱き上げると、松本は俺をベッドに寝かせ直した。
そのまま毛布をかけると、部屋の灯りを消した。
「まだ時間は早いですが…おやすみなさい…」
「……」
一人に、なりたくなかった。
だけど、行くなとも言えず俺は押し黙るしかなかった。
松本が出て行くと、部屋が寒くなった気がした。
あの時…
翔が死んだあの時、俺は大怪我を負っていた。
怪我が治って退院してきても、俺は現実を受け入れられないでいた。
来る日も来る日も抜け殻のようになって過ごしている俺を、松本は抱いた。
後にも先にも、松本に抱かれたのはあれきりだが、正気にもどるまでの一ヶ月、俺は松本に抱かれ続けたのだった。
ぎゅっとシーツを握る。
今は二宮というものが居る。
なんの不満もない。
だけどこの胸に流れる冷たいものは…
消えることがなかった。