第14章 啼き竜
草彅の顔が歪んだかと思うと、背中をギリっとさっきよりも大きな痛みが走った。
「あ…?」
ぽたり、道路になにか落ちた。
血
「ちょっと…待てよ…」
待ってよ。
なんで…?俺…?
草彅の腕を掴もうとしたら、手を掴まれた。
「あんた…楽しかったろうなあ…」
「え…?」
「今まで好き勝手に生きてきてよぉ…」
「なに言って…」
ぐりっと草彅の手が動いたかと思うと、また背中に痛みが走った。
「そうだよな…赤ん坊のまま成長しないでよ…楽しい事しかなかっただろうよ…」
いきなり、女の悲鳴が近くで起こった。
女が逃げていく。
周りに居た通行人が一斉にこちらを振り返る。
ばたばたと周りの人間が走りだした。
「お前は生きてちゃダメな人間なんだよ…」
「は…?」
「人の痛みも、情もわからないようなのが生きてたってなあ…」
草彅の身体が俺を押し上げた。
「ぐああっ…」
内臓をえぐられるような痛み。
思わず声を上げて、草彅の身体を押した。
それでも離れない。
「クソの役にも立たねえんだよ」
「ふ…ざけんな…クズが…」
身体を翻そうと足に力を入れた。
途端、生暖かい液体がズボンの中を伝っていった。
「え…?」
「そのクズに…殺される気持ちはどんな気持ちだ」
ころされる…?
「今までお前が散々殺したクズもなあ…」
俺が…?
「お前みたいに痛かったんだ」
そんなわけねえだろ
俺とクズを一緒にすんな
「まあ、おまえみたいな赤ん坊には…そんなこた、わからねえだろうがな」
ニヤリと笑うと、草彅の身体がもう一度俺にぶつかった。
今度は正面からぶつかった。
その手には…
ナイフが握られていた。
ナイフは…俺の腹に、めり込んでる。