第14章 啼き竜
こんな仕事してるから、奥さんには逃げられた。
日本にあまりいないし、居ても家にいないから。
子供も居ないし…
こんなことなら、若い時に中出ししまくって作っておけばよかった。
だったら奥さん逃げなかったかもしれないのに。
家に帰るとすぐに携帯を取り出した。
ソファに座りながら、あいつに電話をする。
呼び出し音の後は、決まって不機嫌な声。
『…なんの用なの…?』
「ねえ…会おうよ」
『なんで私が…?』
「会わないと…殺しちゃうよ…?」
『…今は…無理よ…』
「なんで?北海道に居るから?」
『そうよ。もう年なの。すぐに動けるわけじゃないの』
「迎えに行くよ」
『仕事は…』
「そんなのもうすぐ辞めるから」
『…辞めてどうするの…?』
「…一緒に、フィリピン行こうよ」
『フィリピン…?』
「一年中暖かいんだ。北海道なんかなにがいいの」
『あなたにはわからないわ』
「ねえ…」
『甘えた声を出さないで』
「…小杉、死んだよ?」
電話の向こうで景子が絶句したのがわかった。
「びっくりした?」
『…智が…殺したの?』
「多分、そうなんじゃない?」
『そう…わかった』
声が一気に鋭くなった。
『今週末、東京に行く』
「ほんと?」
『でもフィリピンには行かない』
「…なんで?」
『私は、私のやりたいことしかしない』