第13章 竜王申し
「でも、希子さんの腹には…」
「それも…わかってる。だから、別れたんだ…」
吸うのを忘れていたタバコを肺いっぱいに吸い込んで吐き出した。
「しょうがねえだろ…希子は堅気なんだ。置いていくしかねえ」
「組長…」
「生まれてくるガキにゃ、あいつのことだからいい父親をみつけるだろうよ…」
立ちあがって窓から外を見つめる。
今日もいい天気だった。
「…どうしても、やるんですね…」
「ああ…だから、後は頼む」
「わかりました」
力強い声だった。
振り返ると、井ノ原はちょっと困ったみたいな顔をして下を向いた。
泣きそうになってやがる…
「泣くなや…」
「泣いてないっす…」
その時部屋のドアがノックされた。
「誰だ」
静かにドアが開くと、松本が立っていた。
井ノ原が俺の顔を見た。
「出ててくれ。松本、入れ」
少し頭を下げると、松本は入ってきた。
ソファに座らせると、井ノ原は部屋を出て行った。
「なんだ、急に…」
「叔父貴…」
思いつめた顔してやがる…
「なんだよ」
「俺にも、翔さんのデータ見せてくれないか」
シゲのマンションには一緒に行ったが、松本と相葉にはデータは見せていない。
松本の顔には焦りが見えていた。