第13章 竜王申し
組事務所に顔を出すと、井ノ原がキリキリと働いていた。
「おい…朝から何張り切ってんだ…」
「あっ…組長!誰のせいだと!」
「すまねえって…」
俺が組事務所にほとんど顔を出さないから、組のことはすべて若頭である井ノ原が仕切ってる。
こいつの負担になってるのはわかってるが、俺に何かあったら組を継ぐように言ってあるから、あまり気にしてはなかった。
「井ノ原ちょっと」
一瞬俺に軽口を叩こうとしたが、すぐに真顔になって長部屋に入ってきた。
今の俺の組は、もともと小杉のシマだった。
そこにある雑居ビルを買い取って、そこをまるごと組事務所にした。
1階にあるテナントは、井ノ原の女房にブティックをさせている。
「なんでしょう」
部屋の奥のデスクの椅子に深く腰掛けて井ノ原を見つめる。
「ああ。このビルの一部屋、俺にくれたよな」
「ええ。いつでも住めるようにしてあります」
「今日からそこに入るから」
「えっ。組の仕事に精だしてもらえるんですか?」
「いや…」
タバコを咥えると、火を着けた。
「あんな、井ノ原」
「…なんですか…」
「おまえを本家(喜多川のこと)から貰い受けたのは、申し訳なかったと思ってる…」