第13章 竜王申し
二宮がコーヒーを運んできた。
そっと俺達の前に置くと、ドアの前に陣取った。
こいつは…
あくまで智の影になるつもりだろう。
だから、智が倒れたら一緒に倒れるんだろう。
それになんの疑問も感じていないし、当然だと思っている。
惚れてるんだろうな…
極道の世界だから、男が男に惚れるということはあるし、わかる。
だが、それはあくまでも男気ということであって、恋愛感情ではない。
こいつらの間には、恋愛感情がある…
昔、なにか事情があったらしいが、俺にはわからない。
智が矢崎にやられてたことがきっかけなのか…
わからないけど、こいつらがスケベな意味で男に走っているわけじゃないのは、わかるから…
軽蔑なんてできなかった。
「総長」
「おう」
「これから根城は草彅組の事務所にします」
「え?女の家じゃねえのか?」
「今日、別れてきたんで」
そう言うと、総長は黙りこんだ。
「ちゃんと、言ってやったのか…?」
「いえ…」
「そうか…」
マグカップを手に取ると、一口飲んだ。
それから俺を見ると、少しだけ悲しそうに笑う。
「井ノ原には、ちゃんと言っとけよ」
「はい…」
俺も一口コーヒーを啜った。
いつもより、苦かった。