第13章 竜王申し
「なに…言ってんの…」
女の声が震えてる。
必死になにか噛み殺そうとしているように聞こえた。
「わかってるだろ…?希子…」
「…い…いかないで…」
希子が廊下を歩いてくる。
冷たい廊下なのに裸足で…
「身体、冷やすな…もう戻れ」
「嫌よ…剛…」
「俺はもう、行くから」
「剛っ…」
泣き崩れる希子を初めて見た。
こいつは芯が強くて、乱れた姿なんか見たことなかったのに…
「ごめんな…希子…」
崩れ落ちる肩を抱くこともなく、俺は家を出た。
「剛っ…愛してるっ…」
希子の叫び声は、いつまでも耳の奥に残った。
地下の駐車場から車を出す。
まっすぐに大野の家へ向かった。
入ると、若衆が出迎える。
「総長は?」
「まだ寝室です」
「そうか…じゃ、待たせてもらう」
リビングで新聞を広げてると、総長と二宮が入ってきた。
「来てたのか、草彅」
「はい。すんません、朝早く」
「いや、いいがよ。なにかあったか?」
すっと二宮はキッチンの方へ消えていった。
「いえ…別に…」
智と櫻井がそういう関係だったのは、なんとなくわかってた。
今現在、二宮とそういう関係なんだろうなってことは最近わかってきた。
俺は、こういうことに関しては鈍いのだ。