第4章 傷だらけの翼
「組長、喜多川の姐さんが…」
おんぼろビルの事務所に、喜多川の姐さんが来ることは珍しかった。
姐さんは相変わらず美しい友禅を着こなして、事務所に入ってきた。
「相変わらずセキュリティーの甘い事務所だねえ…」
「あいすいません…」
城島が頭を下げて出迎える。
「達者にしてるのかい、城島」
「はい。ボンに良くしていただいて…」
「足は…?」
「ふ…もう、どうにもなりませんよ…」
そう言って義足の右足を叩いた。
「最近じゃ、歩くのも難しいですわ」
「ふ…隠居したらどうだい」
「ま、もう少しシャバの空気、吸わせていただきましょ」
城島は若いころ喜多川一家で飯を食っていた。
そこから俺の親父に気に入られ、大野組で盃を貰った経緯がある。
若いころの姐さんとは、喜多川の家で一緒に暮らしていたこともあるのだ。
二人の間に流れる空気には、なにか独特のものがあった。
「たまには喜多川に遊びに来な」
「はい。そうさせていただきます」
「そうそう…智也がこれから世話になるんだって?」
「はい…組長がそうおっしゃってますが…」
「頼んだよ。あの子はあたしの息子みたいなもんだから…」
「はい…わかってます」
そう言うと、二人は目を合わせて笑いあった。