第12章 竜飛
「命なんて…極道に、真っ当な命なんてあるわけねえだろ?」
「…でもよ。俺はあんたの仏になった姿なんぞ拝みたかないね」
「へえ…そらまた…」
「冗談で言ってんじゃねえんだ。喜多川の親父みたいに、あんたには長生きしてもらわねえとな」
「あんたが困るってか?」
「そうだ。一緒にコーヒー飲む友達が居なくなるじゃねえか」
ぶっと草彅が噴き出した。
「あんたなあ…この歳になると、趣味の合う友達なんて見つけんの大変なんだぞ…」
「そりゃ、どうも…」
笑いをこらえながら草彅は運転している。
「今日日、本当に旨いコーヒーがわかるやつなんて珍しいんだ」
「遠藤さんよ…」
「なんだよ」
「その友達って、俺のことか?」
「ばっ…ばかやろうっ」
ふてくされて遠藤はそっぽを向いてしまった。
草彅の笑いはいつまでたっても止まらなかった。
「もういいから…その角で停まってくれや」
枝道を指され、そこで車は停まった。
「成田のこと、なにかわかったら連絡する」
「ああ…頼む」
降り際、遠藤は俺の肩を掴んだ。
「無理はすんな。欲しい情報があったら言え」
「じゃあ、百人町の喫茶店で待ってる」
ぶふぉっと遠藤は噴き出して、笑いながら降りていった。
「出せ」
草彅は笑ってうずくまっていた。