第12章 竜飛
ぐっと拳を握らないと、堪えられない。
初めて見るこの風景…
翔が、最後に見たであろう風景…
遠くから線路が軋む音がする。
電車が近づいている。
踏切の音が大きく鳴り響く。
祐也がそこにしゃがみこんで花束を置いた。
二宮がそこに酒を置いて手を合わせた。
立ち上がると祐也はタバコを手にしていた。
翔が吸っていた銘柄だった。
そこから一本取り出すと、一ふかしして花束の横に置いた。
「すいません…総長がここに来れないこと、知ってたんですけど…俺、どうしてもっ…」
そう言って後は言葉が続かなくなった。
「ああ…わかってる。ありがとう…」
泣きじゃくる祐也の肩を二宮が引き寄せた。
そのまま二宮は俺に背を向けた。
公園の方を向いている。
俺に…手を合わせろってことか…
街灯が遠くに見える。
薄暗いその中で、俺はどうしていいか皆目わからない。
ここで死んだ翔を思い浮かべればいいのか。
それとも翔が最後にみた風景を頭に刻めばいいのか。
ただぼんやりと立ち尽くしていると、電車が目の前を通り過ぎた。
轟音にも似た音。
不意に、涙が溢れた。
こんなとこで…
こんなところで翔は…
なんで一人にした…なんで一人で逝かせた…
なんで俺を連れて行かなかった…
電車が通りすぎても、俺の慟哭は止まらなかった。