第12章 竜飛
帰り際、玄関で靴を履いていると祐也が俺のコートの裾を握った。
「なんだ?」
「あの…もうすぐ…」
「ああ…」
「俺、花買ってきたんです…行きませんか?」
祐也が縋るような目をするから、断れなかった。
「わかった…行こうか…」
今まで、一度も行くことができなかった、その場所。
マンションを出ると、連れ立って歩くのもカッコ悪いから、二宮だけ連れて後は俺達が終わってから行けと言ってやった。
祐也と二宮、そして俺が連れ立って歩く。
線路沿いのフェンスの道をゆっくりと歩いていくと、少し広くなっているところがある。
そこから右に行くと公園で、その入口の部分が道路を広く見せている。
あの時…
気がついたら胸から血が出ていた。
死んだかと思った。
だけど、俺はまだ息をしていて。
飛び出そうとする翔を引き留めようとした。
怒鳴って翔を止まらせた途端、また銃声がして…
振り返った翔の腹は真っ赤で。
手を伸ばすと、翔は俺を抱きしめ耳元で囁いた。
”愛してる”
あんな…死の間際まで…冷静で…
俺を守ることだけ考えて…
翔は飛び出していった。
止めることができず、二宮の腕の中に倒れこんだ。