第12章 竜飛
男は振り返らない。
「なんだってんだよ…」
大体、冥土で待ってる奴が多すぎて誰のことだかわからない。
「ヤクザなめんじゃねえぞ…」
遠くなる後ろ姿にひとりごちてみるが、居心地の悪さは変わらない。
頭の後ろに目でも付いてるみたいに、まだ監視されてる気がした。
男の後ろ姿が視界から消える頃、車が横付けされた。
「どうしました総長」
二宮が助手席から顔を出す。
「いや…ちょっとな…」
額に汗をかいていた。
こんなこと、久しぶりだった。
車に乗り込むと、喜多川にまっすぐ向かった。
事務所に入ると、草彅が待っていた。
「総長、ちょっと…」
話があるというので、長部屋へ入れた。
「どうした」
「どこ行ってたんだ」
「ああ…ちょっとな…」
「櫻井の親父のツラ拝んできたのか」
鋭い…
「最近松本が捕まらなくて難儀してんだ。何やってるか、俺にも教えてくれたっていいだろうが」
「ここで引いてくれねえか…」
「え?」
「事実は明らかになったろう…後は、俺が始末する」
「なに言ってんだ…」
「ここで引いてくれ。頼む」
立ちあがって頭を下げた。
「あんたには…後を頼みたいんだ…」