第12章 竜飛
外に出ると寒風が吹いていた。
確かにあれくらい苦いほうが、身体にコーヒーが染み渡るかもしれない。
まだ車の影はみえなかったから、少し歩いた。
けやきの並木が続く歩道をゆっくりと歩く。
落ち葉を革靴で踏みしめながら下を向いて歩いていると、視界に見慣れない革靴が入った。
顔を上げると、知らない奴。
つぶらな目に得体のしれない炎を宿している。
薄い唇は少しだけ歪められて笑っている。
意志があるのかないのか…
まったく読み取れない不気味な感じだった。
危険な野郎だ。
本能で感じ取った。
背中を見せたら殺られる。
じりっと後ろに下がると、歩を進めてくる。
「あんた…大野さん?」
かすれた声。
なのに甘ったるい、甘えたような喋り方だ。
「お前…誰だ」
今日に限って丸腰だった。
ドスの一つくらい持っておけば良かったな…
「ふうん…根性座ったって顔してるね…」
「だから誰なんだよ」
「俺、あんたのことずっと知ってるよ」
「は?」
「もう、下手に動かない方がいい」
「なんのことだ…」
「冥土で待ってる奴が悲しむよ?」
「…おい…お前…」
それだけ言うと男は歩き出した。
「待てよ…お前…」