第12章 竜飛
翔の父親は昨年、エネルギー庁の長官になっていた。
出世レースに勝ったのだ。
そして来年には経産省本省に戻り、事務次官へまっしぐらだという。
エネ庁の長官の次は、事務次官しかないのだから。
官僚の極みがすぐそこにあるってわけだ。
それが自分の息子を殺してまで手に入れたいものってわけだ…
「くだらねえ…」
呟くとタバコを取り出した。
相葉がライターで火をつけてくれる。
紫煙を吐き出すと、スマホを取り出した。
アドレスを手繰って発信する。
「もしもし…俺だ…」
一時間後、新宿に到着した。
「適当にその辺流しといてくれ」
「わかりました」
松本は頷くと車を出した。
踵を返すと、見慣れたドアを開ける。
カランコロンと鈴の音がする。
奥のボックス席に遠藤が居た。
右手を軽く上げるから、また向かいの席に座った。
マスターが注文を聞きに来て、また俺はホットを頼んだ。
「…珍しいな。あんたの方から…」
「ああ…頼みがあってね」
「なんだよ…怖いな…」
遠藤はマグカップを持つとコーヒーを啜った。
「難しいことじゃねえよ…成田」
ぴくりと眉毛が動いて、ゆっくりと俺を見た。
「成田のツラ、拝めねえか?」