第12章 竜飛
パワーウインドウが降りて、視界が明るくなる。
「あれが…櫻井俊です」
相葉の声が俺に教えてくれる。
白髪混じりの男が見えた。
「あれか、あのメガネ」
「はいそうです」
誠実そうな親父に見えた。
あんなことができるようには見えない。
「…似てるな…」
「ええ…」
助手席に座る二宮もじっと見ている。
松本は前を向いていた。
調査を一緒にしていたから相葉と一緒に見たのだろう。
「年を取ったら、ああなってたのかな…」
もしも翔に…あんな性癖がなかったら…
きっと父親と同じ道を歩いていただろう。
今頃、どこかの省庁の係長くらいにはなっていたかもしれない。
かっちりとしたスーツを着こなし、背筋を伸ばして歩いている。
黒塗りの車から降りたと思ったら、あっという間に入り口に吸い込まれていったから、その姿を見たのは一瞬だった。
「いい…もう出せ」
車はゆっくりと発進した。
ここは経済産業省の隣りにある別館。
その中にエネルギー庁が入っている。
「霞ヶ関ねぇ…」
ここには日本の中枢が集まってる。
テロや戦争でここをやられたら、日本は終わる。
こんなところに翔の父親はいる。
遠くなる建物を見ながら、天に目を向けた。
見えているか。
そこから…