第11章 竜に翼を得たる如し
小杉は俺から目を逸らさなかった。
「…やめた。おい、松本。殺さない程度に好きにしろ」
「わかりました」
俺は背を向けてキッチンに向かった。
テーブルと椅子が置いてあったから、椅子に腰掛けた。
「ありゃ、時間かかるな」
「すいません…自白剤とか用意すればよかったですね」
「ばかやろ、あんなもん専門家がいねえと使えねえだろ。間違って殺したら事だ」
「確かに。あ、総長、ハンカチお返しします」
草彅がポケットから出してきたのは、ものすごくいい匂いのするハンカチだった。
「おまえ、ポプリ本当に挟んだの?」
「はい。手作りです」
「まじか」
その会話の間も、6畳間からは小杉の悲鳴が聞こえる。
「あ、相葉と二宮。松本、殺すかもしれねえから、見張っとけ」
「はい」
ふたりは6畳間に入っていった。
「ふ…狂犬…」
「笑ってやるなよ草彅…本人だって好きでなってんじゃねえんだから…」
いい匂いのするハンカチを懐に仕舞った。
松本が狂犬みたいになるのは、あの頃に受けた傷が未だ治っていないからだ。
スイッチが入ると自分で制御できない。
自分以外、全部敵に見えるそうだ…
「児童買春ねえ…俺にはわからねえや…」
「俺にだってわからねえよ。なんで小学生のケツに突っ込みてえのかよ…」
「…すまない」
「いいんだ。もう過去のことだ…」
小杉の声は、うめき声に変わっていた。