第11章 竜に翼を得たる如し
俺と遠藤の出す紫煙で周りは一瞬、白い幕ができた。
そこにマスターがコーヒーを運んできた。
一口啜った。
やっぱり旨い。
「その成田ってやつは、自分の商売がやりやすいように、いつもパワーバランスを崩す…」
「へえ…」
「だから、アジアから仕入れたシャブをヤー公に流すなんざ、お手のもんだろ…」
「ふうん…」
「…あんた、なんか雰囲気変わったな」
「え?」
「陰腹切ってるみたいな顔してる」
「なんだそりゃ」
「まあいい…死ぬんじゃねえぞ。総長殿」
「そんなこと、どうでもいいだろうが」
遠藤はじっと俺を見た。
「成田は経産省のお役人と繋がってる」
「…え?」
「へえ…あんた、なんか知ってるのか?」
「いや…それは、確実な情報か…?」
「ああ。出処は聞いてくれるな」
「…優秀なスパイがいるんだな」
「ま、そういうことにしといてくれ」
経産省…どこかで聞いたことがある…
どこだ…どこだった…
「すまんな…俺ができるのはここまでだ。あんたんとこに回ってるシャブなんだが…」
「それはこっちから断ち切る。あんたには迷惑かけねえ」
「…そうか」
遠藤も冷えたコーヒーを啜った。
「腐れきっちまってるよ…」
そのつぶやきは、小さかった。