第10章 夢路
「姐さん…」
「智のこと、くれぐれも頼む…あたしの唯一の血縁なんだ…」
姐さんは畳に手をついて頭を下げた。
なんとなく…姐さんが母親なんじゃないかと思った。
「小杉にゃ餌を与えておく…だからこっちのことは気にするな」
総長のタマを狙ってるというのも筒抜けか…
「あいつにはまだ利用価値があるんでな。生かしておくこと、勘弁しておいてくれ」
「利用価値…?」
「逆手にとってやりゃいいだろうが」
庭の池で、何かが跳ねるのが見えた。
「ま、それも…俺が生きてる内だろうがな…」
脇息から身体を起こすと、総長は背筋を伸ばした。
「俺が死ぬまでは、小杉から繋がった公安は抑えといてやるよ」
「総長…」
「だから、てめえの事はてめえで片つけろ。いいな」
「はい…この身に変えても…」
くすりと景子姐さんが笑った。
「死んじまったら、智のことどうすんだい」
「…はい…」
書斎を出ると、一気に汗が噴き出た。
本当に総長には敵わない。
隠し事も一切できない。
…それは親の愛なんだろうか…
たくさんの人に守られて…智は生きてる…
それを、知らないまま…
懐に入れた封筒に入ったUSBを撫でる。
「ありがとう…ございます…」