第10章 夢路
総長は脇息に凭れかかった。
「俺もこの年だ…もう無理はきかねえ…」
「総長…」
「お前にだけ言っておく」
「は…」
総長の顔が引き締まった。
「智は…俺の子だ」
「え…?」
「母親は聞いてくれるな。大野んとこは子供ができなかった。だから大野に任せたんだ…」
「でも実子として籍に…」
「だから、そこから引き受けてくれたんだよ…守は…」
大野組、前組長大野守…ずっと智の実父だと思っていた。
疑う余地なんてどこにもないほど、あの親子は似ていた。
「だから…許す…」
「え…?」
「お前らが足を洗うのを許す」
「総長!」
「制裁もなにもなしだ。これが俺が智にしてやれる最後の仕事だ」
こんなことって…あるだろうか…
「ただし、世話になった守の組は残してやりたい…だから、今回の件をきっちり片付けて、跡目立てるとこまでやれや」
総長の目に涙が光った。
だがそれも一瞬のことだった。
「いいか…櫻井。お前に掛かっているんだ。俺は手出ししねえぞ?」
「…わかりました」
「男、見せやがれ」
「はい…!」
姐さんが俺の横に座った。
懐から封筒を出すと、俺に差し出した。
「今回の一件、ここにまとめてある。活かすも殺すもお前次第だ」