第9章 切迫の淵
喜多川に戻ると草彅が戻ってきていた。
「書斎に呼んでくれ」
住居部分に足を踏み入れると、長瀬と鉢合わせした。
「総長」
「おう、どうだ上手くやってっか」
「おかげさまで…この前、跡目相続の盃ありがとうございました」
つい先日、大野組で跡目の盃をしたばっかりだった。
「今日はなんだ?スカウトに来たのか?」
「いいえ…あいつらで十分ですよ。仏壇に…」
「そうか…お前、殊勝な所あるじゃねえか」
「親父には世話になったんで…」
また長瀬の身体が小さく見えた。
「ま、孝行なのはいいことだ…」
照れくさそうに笑うと、長瀬は一礼して玄関に向かった。
「あ…智也」
「はい」
「シゲ、貸してくれ」
長瀬から4人を借り受けることを約束して、書斎に向かった。
ブラインドを上げて庭の池を眺めていたら、池から飛び立つ龍の絵が描きたくなった。
絵筆は、翔が死んでから握っていない。
ドアがノックされて草彅と松本が入ってきた。
「ご苦労さん。なんかわかったか?」
「いえ…ちょっと身動きが取れなくなって…」
「だろうな」
「なにかご存知で?」
「遠藤から聞いた。公安と組対が貼り付いてるって。お前らが動いてるのも関係してる」