第9章 切迫の淵
「すいませんでした…」
「ん…」
相葉が立ちあがって離れていく。
「喜多川に…戻ります」
「ああ。そうしてくれるか」
「はい。小杉に好き勝手はさせませんから」
ぎゅっと顔を袖で拭いて、相葉は顔を上げた。
「ありがとうございます…智さん…」
そのまま書斎を出て行った。
「…相葉…」
強くなれ
てめえの足で踏ん張って立てるようになれ
おまえは本当は、とても強いんだから。
俺よりもな…
部屋に戻ると、まだ二宮は寝ていた。
寝顔は子供のように純真だった。
一番強そうに見えて、一番脆い。
手を伸ばして頬に触れると、その白い肌を撫でた。
脆いくせに俺を思う心は一番強くて…
その熱情に、俺は負けた。
翔が居なくなって、松本のお蔭でなんとか現実を受け入れ始めた時…
二宮は毎晩俺の部屋に来た。
なんでもない外の話をしては、俺の布団に潜り込んできて眠る。
人肌が恋しかったから、俺はそれを咎めることもせず受け入れていた。
そんなことを一年ほどしていた。
組にも復帰して、抗争の後始末もまだ長引いていて…
そんな時、二宮は俺の布団の中で言ったんだ。
抱いてください、と。
震えながら…俺のパジャマを握りしめながら…