第9章 切迫の淵
あの時も…相葉は震えていた。
相葉が失語症になった原因…
売春をするために、両親に去勢されたのだ。
最初は女相手の商売だったからだ。
妊娠しないように、相葉は去勢された。
だが医者にもかからず素人がやったことだ。
あのボロいアパートでそれは行われた。
相葉は勃たなくなった。
性的不能者になった相葉は…男に身体を売ることになる。
俺の舎弟になって、両親とも縁が切れてやっと喋れるようになった相葉は震えながら俺に告白したのだ。
自分は不能者なのだと。
もう男ではないのだと。
だから…相葉は翔にも松本にも二宮にもなれない。
それがこいつを苦しめている。
「相葉…おまえは、おまえだからな…誰になる必要もないからな…」
何度も言い聞かせてる言葉を言ってみたところで、相葉の気持ちが軽くならないのはわかってる。
だが俺は、言わずには居られなかった…
「おまえが必要だよ…頼りにしてるからな…」
俯いたままこくんと頷くと、相葉は少し泣いた。
「おまえにはおまえにしかできないことがあるんだからよ…」
ぎゅっと肩を抱き寄せ、髪を撫でてやる。
こうすると、安心するらしくだんだん詰めていた呼吸も整ってくる。