第9章 切迫の淵
相葉の背中が震えた気がした。
床に転がってる松本の顔から怒りが消えた。
「…なんだよ…あんたが泣く事ないだろ…」
「これ以上…総長を困らせるんじゃねえよ…」
「え…?」
相葉は…人の心の襞にすごく敏感で…
俺が相葉たちを連れて行かないことに気づいているんじゃないだろうか…
「俺達は俺達のやれることをやってればいいんだ」
「兄貴…」
「わかったらちゃんと公安の尻尾捕まえてこいや」
「わかりました」
口元に滲んだ血を手の甲で拭き取ると、松本は一礼して部屋を出て行った。
相葉が振り返って頭を下げた。
「すいません…勝手なことして」
「いや…いいんだ」
顔をあげようとしない相葉に近寄ると、肩をたたいた。
「一人で抱え込むな…」
「はい…」
よろけた身体を抱えてソファに腰掛けても、まだ顔を上げなかった。
泣き顔を見せたくないのだろう。
だけど、部屋から出て行く勇気もないのだろう。
こいつもまた、不安にさせていたんだ…
ごめんな…相葉…
黙ってその震える身体を抱き寄せた。
「こうやっててやるから…な…?」
「智さん…」
ぎゅっとジャケットの襟を掴まれた。
「すんません…今だけ…」