第3章 取り残された竜
「あの子らには、別で一家を立ててもらう」
「えっ…!?」
姐さんの言葉に衝撃を受けた。
「あの子らが今まで喜多川を出なかったのは、総長に恩義があるからだ…だが、総長がいなくなればその恩義も消える。ここらであの子らを喜多川から解放してやりたい」
東山の叔父貴も、近藤の叔父貴も…確かに舎弟の器じゃない。
俺が喜多川一家の総長になったとき、俺の舎弟でいるなんてこと想像がつかない。
しかし…一家の総長の方から、舎弟を外に出すなんてこと…前代未聞だ。
「姐さん…キツイぜ…」
「ふ……ま、これがアタシの最後の仕事だ。あんたが総長になったら、存分にやりな」
姐さんはコーヒーをすすりながら、また嫣然と笑った。
姐さんの部屋から出ると、二宮と松本がドアの両側で座って待っていた。
「長瀬、呼んでくれ」
そのままいつもの座敷に入る。
今日はどの叔父貴も来ていない。
座敷に細身の男が入ってきた。
「智兄…」
「おう…まあ、座れや」
長瀬に座布団を差し出すと、素直に座った。
「どうしたんだよ…」
「まあ、ちょっくら話聞けや」
長瀬は喜多川の家にずっと居ついてる客分だ。
他の一家から預かったんだが、その一家は壊滅してしまった。
だから今は立場が宙ぶらりんになってしまっている。
十代の頃からずっと居るから、もう喜多川一家といってもいいんだけどな…