第9章 切迫の淵
墓参りを済ませ、そのまま草彅をヤサに送り届けた。
「どこか寄りますか?」
「ああ…喜多川に戻ってくれ」
「え?大野の家に帰るんじゃ…」
「相葉に話がある」
「あ…もしかしてさっきの話…」
「松本は知ってるんだから、相葉だけだ…あいつにゃ話しておかねえとな…」
「だったら喜多川じゃなくて大野の家に呼び出したほうがいいです」
「…そうだな…じゃあ、そうする」
車窓を眺めながら、色々なことが頭をよぎる。
「なあ…二宮」
「はい」
「草彅の下に、誰つけてやろうか…」
「腕利きがいいでしょうね…兄貴頭切れるから…」
「だよなあ…」
喜多川から誰をやろうか…
ぱらぱらと頭に浮かんでは消える舎弟や若衆たち。
姐さんのお蔭で、俺の駒になりそうなのは何人かいた。
「長野はこの前城島にやっちまったしなあ…」
「堂本なんかどうでしょう」
「ピカイチか?剛か?」
「剛のほうで…」
兄弟でもないのにピカイチと剛は同じ堂本という苗字だ。
「草彅も剛だろうが…ややこしいな…」
「でもあのくらい繊細じゃないと草彅の兄貴にゃついていけませんよ…」
「ピカイチは天然だからなあ…」
ピカイチこと光一は東山によく懐いている。
だけど別に東山の直属の舎弟ではない。
ふたりともヤクザには似合わない物腰で、幹部の女房達に密かにダブルプリンスと呼ばれている。
「面倒だ。井ノ原にする…相葉に言っといてくれ」
「わかりました」