第9章 切迫の淵
「…すんません…」
ぽつんと車通りのない道に車は停まっている。
「おい…二宮?」
「はい…」
「猫でも通ったか?」
「いえ…ええ…」
訳の分からない返事をして、二宮は車を出した。
「総長…」
「なんだ」
「小杉のサツ絡みのこと、俺…途中にしてることがあって…」
「なんだよ。それ」
「いえ…今はまだ。だから俺、そっちに出てもいいですか?」
「あ…?お前は俺の側にいろって言っただろ」
「でも…」
草彅が身を乗り出してきた。
「二宮、なんかあんのか」
「あの…草彅の兄貴…」
「…わかった…」
草彅は膝に肘をつけて手を組んだ。
「…総長、これは俺と二宮の預かりにしてくれないか」
「どういうことだよ」
「今、松本にも調べさせてることがある。まだあんたに上げる時期じゃない。二宮の握ってることと俺たちが握ってることが同じならな」
「はっきり言えよ。奥歯に物の挟まった言い方するな」
二宮がルームミラー越しにこちらを見る。
「…松尾組との抗争の件だ」
「え…?」
「あの時、裏で糸を引いていたのは小杉だ。だけど、小杉にあんな上手く立ちまわる能なんてねえだろ…」
「ああ…」
「サツ…それも公安が絡んでいたとしたら?」
身体から血液がなくなったかと思った。