第9章 切迫の淵
「俺も…行こうか…何年も慎吾兄の墓には参ってない」
「総長…」
「…墓の前では、智でいいよ…」
「ああ…」
ドアの前に立っていた松本が、俺の顔を見る。
「今日は約束もねえから家に帰る。相葉と小杉にそう言っとけ」
「わかりました」
「車の運転は二宮に」
「はい。門に車を回します」
あれからぎこちなくなることもなく…
相葉や二宮がどう思っているかはわからないが、今まで通りだった。
草彅も加えた俺たちは、ある目標に進んでいる。
今更、あんなことで足並みが崩れるわけもなかった。
玄関の前で相葉と小杉の見送りを受け、門を出る。
滑り込んできた車の運転席には二宮がいる。
二人で乗り込むと、若衆が頭を下げながら見送った。
「慎吾さんの墓でいいんですね?」
「ああ…頼むな」
草彅が言うと、二宮は頷いた。
「で…今んとこ、小杉んとこは…」
「レアアース絡みの損失を補うために、シャブに手ぇだしたみたいです」
「ふぅん…」
「後…サツといろいろ…」
「なんだそりゃ」
「金、ですね」
「金なあ…あいつ懲りちゃいねえんだな…」
「そのサツが…」
その時、二宮が急ブレーキを踏んだ。
「あっぶねえ…おい?二宮?」