第9章 切迫の淵
その日から、一家の者達の態度が変わった。
それまで不承不承と言った感じだった者たちが、背筋を伸ばして俺に接してくる。
「見せしめは成功だったんですね」
草彅がくすりと笑うから、顔を顰めておいた。
結果的にそんなことになってしまったが、まあ便利なので良かったことにする。
「小杉の尻尾掴めたか?」
書斎のブラインドを上げて、庭の池を眺める。
「はい。慌てて証拠隠そうとして、逆にね…」
「じゃあ、血祭りに上げた甲斐があったなあ。白波瀬みたいな阿呆でも役に立つんだな」
白波瀬組は、現在東山と近藤の預りになっている。
後を仕切っているのは若頭の佐藤だ。
「…あんな老害、いねえほうが喜多川のためなんだ…」
ぽつりとつぶやくと、草彅は唇の端を上げて下を向いた。
「後には…禍根は残したくないですからね…」
「ああ…」
小杉へのカードが、また手に入った。
後は、どれから出していくかだ。
「総長、俺は今日はこれで…」
「ああ。なんかあんのか?」
「もうすぐ慎吾の命日なんで…墓参りに」
「…もう…そんな時期か…」
大野組の幹部が襲撃された後…
松尾組との抗争が始まった。
その最中、客分であるはずの草彅の叔父貴が巻き込まれ、慎吾兄はそれを庇って死んでしまった…