第9章 切迫の淵
両手をだらんと下げて待ってるのに、白波瀬は腰が抜けたように座り込んで立ち上がろうともしない。
「総長っ…勘弁してやってくださいっ…」
「佐藤、どけ」
佐藤が土下座をして必死で訴える。
「申し訳ありませんっ…組の解散だけはっ…」
「処分は東山と近藤がする。頼むんならそっちにしろ」
「総長っ…」
その時、突然白波瀬が立ちあがって俺に掴みかかってきた。
「智、てめえっ…なんでてめえが総長なんだっ…ケツ使ったのか…親父のこと誑し込みやがって…この男芸者がっ…」
一斉に幹部たちが動こうとしたその時、自然に身体が動いた。
白波瀬の胸ぐらを掴んで、顔を殴りつける。
一発で倒れなかったから、何回も殴りつけているうちに抵抗はなくなった。
「あ?なんつったよ…もう一回言ってみろよ」
「う…ぅ…」
「ケツで総長が手に入るんなら、ここにいるヤツらの何人かやってんだろうよ…金が欲しいやつなら、腐るほど居るんだからな…」
「もう…やめ…」
「てめえで火蓋切ったんだ…責任取れや」
手を離すと畳に崩れ落ちた。
脇腹を蹴りあげると、唸り声を上げて身体を縮ませた。
「俺がオトコゲイシャとやらなら、俺は総長になんかなってねえんだよ。親父を見くびるな。てめえが40年以上ついてきた頭を侮辱すんじゃねえよ」
はっと白波瀬は顔を上げた。