第9章 切迫の淵
「離せっ…離せよっ…あいつぶっ殺してやるっ…」
いい年のじいさんが髪を振り乱して、血走った目を俺に向けている。
哀れだなぁ…
「異議はないな。白波瀬の処分は総長から俺と近藤に一任された。いいな、草彅」
「はい。問題ありません」
懲罰委員長の顔も立てることは忘れない。
さすがだと思った。
「おやっさんっ…だめですっ…静まってくださいっ…」
「うるせえっ…」
白波瀬組若頭の佐藤が必死で抑えようとしている。
「これ以上あがいても無駄ですっ…静まってくださいっ…」
「タマとってやるっ…離せっ…敦啓っ」
東山と近藤をどかして、膳を跨いで白波瀬の前まで歩く。
しゃがみ込むと白波瀬の髪を掴んで顔を寄せる。
「いいぜ…?取ってみやがれ」
蒼白な顔を俺に向けて、白波瀬は動きを止めた。
「おい、離してやれ」
「総長っ…」
「だめです!総長っ…」
「やれっつってんだろ」
静かに言うと、白波瀬の両腕から手が離れた。
寄りかかるものがなくなった白波瀬の身体は後ろの佐藤の身体にクタリと凭れかかった。
「ほら…相手してやるって言ってるだろうが」
白波瀬の膳を蹴りあげて道を開けてやる。
派手な音を立てて食器が転がる。