第9章 切迫の淵
風呂に入って寝室に行くと、ベッドに二宮が腰掛けていた。
俺を真顔で見ている。
「…もう、来たのか…」
「ちょうど戻ってくるところでした…」
「そうか…」
バスローブのまま、二宮の隣に腰掛けた。
「松本を責めるなよ…」
「なんで…」
「俺が拒みきれなかったから」
「智…」
「だから…俺にだけ怒ってろ」
二宮の手が俺の手を掴んだ。
「怒ってない…」
小さく震えてる。
「泣くな」
「松本のほうがいいんですか…」
「え?」
「だって…すっきりした顔してる」
「そうか…?」
「そんなに松本がいいんなら、俺…引きます」
「なに言ってんだよ…」
立ちあがって背中を向けた。
「俺は…あなたが幸せなら…それでいいんだ」
「なに言ってんだって…」
腕を掴んで座らせた。
「俺の傍に居てくれんじゃなかったのか…?」
「でも…!俺一人じゃ…あなたを救えないっ…」
「いい…救われようなんて思ってねえし…」
「そんなのだめだっ…あなたは海辺の家に行って幸せになるんだ…!」
「和也…」
「それが俺たちの願いなんだ…」
泣き出した和也を抱き寄せた。
「あのな…和也…」
お前だけは…
連れて行くよ