第9章 切迫の淵
「…ずっと…翔さんを呼んでた…」
二宮の目にみるみる涙が溜まって零れ落ちた。
その涙の雫に、月の光がきらきら当たった。
「月が…」
「え?」
「月の光が…綺麗だから…」
二宮の身体をぎゅっと抱きしめた。
「お前が綺麗だから…」
「智…何言ってるの…」
「綺麗だ…和也…」
肩に居る吉祥天にキスすると、身体を離した。
ベッドに腰掛けると、和也の手を握った。
引き寄せると、胸に抱き寄せてくるんでしまった。
生まれたままの姿の和也は本当に綺麗で。
腕の傷跡が痛々しかったけど、そんなの気にならないくらい綺麗だった。
はらはらと涙をこぼし続ける和也を抱きしめ続けた。
「泣くな…和也…」
「智…」
ごめん…愛することはできない。
だけど…お前は大事だよ…
大事な俺の…
こわい
もう失いたくない
「和也っ…」
「智…?どうしたの?」
腕に入るだけの力を入れて、抱きしめた。
もっとぬくもりを感じたくて。
「痛いよ…」
蒼い部屋…あの頃となにも変わらない家…
「和也…」
「うん…?」
ここは俺の…タイムカプセル。
「傍に…居て…」
さらさらの髪が俺の頬を撫でていく。
腕の中で、和也は頷いた。