第8章 竜鳴
昨日、親父の祭壇があった場所。
そこが盃の場所になる。
座敷のぐるりに白い幕がかけられた。
正面の床の間には祭壇がもうけてある。
そこには12本のろうそくが立ててあった。
その前にはめでたい食べ物が並べてある。
その床の間を挟んで、壁には「八幡大菩薩」「天照皇大神」「春日大明神」の掛け軸が掛けられている。
喜多川は博徒系の極道なので、この三軸を大切にしている。
祭壇の横に掲げてある親分衆の名前を確認する。
喜多川の主だった者の名前があった。
今回は喪中の盃という異例のことなので、ごく身内だけで行われる。
本来なら翼竜会の幹部連中も呼ぶところだが…
今回はなしにしてもらった。
「総長、そろそろお召し替えを」
小杉が神妙な顔で言ってきた。
「ああ…わかった」
本当はスーツでもいいのだが、ここは総長になって一発目の盃だ。
紋付袴に着替えなければいけない。
「姐さんの部屋に、城島と松本がいますので…」
「わかった」
「こちらの準備が整いましたらお呼びします」
「ああ…頼むぞ」
座敷を出てまっすぐ姐さんの部屋だったところに向かう。
後ろから草彅が歩いてきた。
「総長」
「あ?なんだお前も着替えろよ?」