第8章 竜鳴
親父が骨になった。
無機質な鉄の箱のなかに、それはあった。
もう人間ではない。
また坊主が読経して、火葬場の職員が骨の説明してる。
これは頭蓋骨
これは喉仏
ここは肋骨
ここは大腿骨…
白い大きな箸を取り出すと、俺に渡してきた。
どうぞ大きな骨から拾って下さい。
ここ数年病んで寝たきりだったから、骨は脆く薄っぺらかった。
頭蓋骨を箸でつまんだ。
ぽろりと崩れた。
それを骨壷に収める。
小杉に箸を渡して、俺は親父の骨を眺めた。
自分の父親の時は、涙が溢れてならなかった。
傍には翔が居て、俺の肩を支えてくれていた。
骨を拾う部屋には、すすり泣く声が満ちていた。
なのにこの薄ら寒さはどうだ。
誰も泣く者もいない。
ただ、ギラギラした欲望を隠して神妙にしているだけだ。
姐さん…あんたはどこかで泣いてるのか…
智也に箸が渡る。
暫く動けないようだった。
なんとか腕を動かして、骨を拾った。
智也は十代の頃から喜多川に居る。
家族がどうとかは知らないが、ついぞ智也の口からは聞いたことがない。
だから喜多川の親父が父親代わり。
景子姐さんが母親代わりだったんだ。
いっぺんに喪った智也は、大きな身体してるのに小さく見えた。