第7章 レクイエム
ここなら、何も気にしなくていいよ…
智に戻ってもいいんだよ…
荷物を片付け終えると、デッキに出る窓から一緒に海を眺めた。
かもめが一羽、飛んで行く。
携帯が鳴って、部屋の奥に引っ込む。
画面を見ると、喜多川の姐さんからだった。
「もしもし…」
『櫻井…智はどうしてる。シャキッとしたか?』
「…いえ、その…」
『…そうか…わかった。もう少し休ませよう』
「姐さん」
『総長がそう仰ってる。暫く大野組はこっちに預けな』
「…俺がなんとかします」
『お前は、そばに居るんだ。これはアタシからのお願いだよ』
「姐さん…」
『智のこと、頼んだよ』
「はい」
『それから、松尾組のことも…』
「わかりました」
『また連絡する』
確かに…まだ俺達は潜っていたほうがいい。
表に出た途端、そこは修羅の道だ。
裏に何があるかわからない以上、ここは一旦総長に預けておくのが一番いいのかもしれない。
「翔…」
振り返ると、智が入り口に立っていた。
「…おいで、智…」
智が歩み寄ってくる。
そっと抱き寄せ、二人で床に座り込んだ。
なんにもない部屋で…体を震わせあなたは俺に縋る。
それでいい。
もうちょっとだけ、こうしていよう。