第7章 レクイエム
そこに着いたら、組長は喋らなくなった。
車の窓から見えるそこを、ただじっと見つめていた。
「さ、行こ…?智…」
俺の顔を見る。
その表情は子供みたいだった。
助手席のドアを開けると、素直に降りてきた。
手を差し出すと、ぎゅっと握った。
海が見える小高い丘に建つ、小さな家。
外壁は木の板を張って、薄い水色のペンキを塗った。
海側にデッキを作って、そこには白いテーブルセットが置いてある。
コンクリも何もしていない家の前の砂利を踏みながら家に入った。
ヤクザを引退いたら、二人で住むために買った家。
一度だけ、智を連れてきたことがある。
ここで住むのだというと、泣きながら喜んでいた。
俺達の終の棲家…
そこに、こんなタイミングで来ることになろうとは…
中に入ると、少し埃っぽかった。
窓を開けて、デッキのイスに智を座らせると、車から荷物を運びこんだ。
3日分の食料と、生活するのに必要な物。
少しずつ買い込んで揃えてはいたけど、まだ足りないものがたくさんあったから、大量の荷物になった。
その間、智はデッキから海を眺めていた。
さっきまでの姿はもうどこにもなくて…
そこには傷ついたような背中だけがあった。
よかった…連れて来て…