第7章 レクイエム
顔面を蹴り上げられた。
病院の廊下に俺はひっくり返る。
背中や腹にめちゃくちゃに革靴が食い込んだ。
「テメエっ…組長に指図する気か!」
「組長っ…」
「若頭っ…!」
バタバタと数人の足音が聞こえたかと思うと、相葉や松本が現れた。
荒れ狂う組長を抑えこむと、引きずるように玄関へ向かった。
「大丈夫ですか…?」
二宮が俺に手を差し出す。
「ああ…」
手をとって立ち上がると、口の端を拳で擦った。
べっとりと血がついた。
車に戻るとぐったりとシートにもたれかかる組長が居た。
ドアを開けて後部座席に乗り込むと、ぎゅっとその手を握った。
「おい、車出せ」
松本が黙って頷いた。
二宮は外で車を見送っている。
今日は病院番を任せた。
助手席の相葉は黙りこくっている。
沈黙が、俺たちを押しつぶす。
「なんで…行っちゃいけねえんだよ…」
「まだ、気になることがあるんです」
「なんだよそれは…松尾組がやったってのは明白なんだろうが」
「そうですね…ただ、なぜ手打ちも間近のこの時期にこんなことをするのか、皆目わかりません。そこの裏を取らせて下さい」
「…なんでそんなことする必要があんだ」
「…これ以上、無駄な血を流さないためです」