第6章 昇る竜
俺はその辺にある湯のみを取って水を浄水器から出した。
ごくりと飲み干すと、もういっぱい水を汲んだ。
「なんか…あったのかい?」
「え?」
「顔が青い」
流石に極道の世界に長く居る女は違う。
さらりと言い当てる。
「人を一人バラしただけだよ?」
「へえ…この前襲撃してきた鉄砲玉みつかったのかい」
怖い…なんでそこまでわかるんだ。
「まあ…な」
姐さんはフッと笑うと、小皿を俺に差し出した。
「味見しとくれ」
ずずっと吸い込むと、懐かしい味がした。
おふくろが死んでから、姐さんは何度か大野に飯を作りに来てくれたことがあった。
その時に作ってくれた味噌汁と、同じ味。
「旨い…」
「そうか。よかった」
姐さんは小皿を受け取ると、俺の頭に手を置いた。
「智…繊細なあんたになにもかも背負わせて悪かった」
「…何言ってんだ…」
「でも、これがお前の活きる道だ」
「姐さん」
「総長もおっしゃってた。お前は、翔の分まで生きるんだ」
何も答えないでいると、姐さんは俺から離れていった。
「赦すことだって…時には必要なことだよ」
そのまま姐さんはまた何か作り始めた。
「…ありがと…」
礼を言うと、台所を出た。