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ごった煮短篇集【裏】

第1章 蟲師・ギンコ


「何怒ってんだ」

「怒って、ない。あっちいって」

目を逸らし、再び縮こまろうとする彼女の腕を掴んで顔を上げさせる。

「……やっ!」

小さく声をあげ、カタカタと体を震わせながらギンコの腕の中に落ち、もぞりと体をよがらせる。
これにはギンコも驚いて、彼女が本当に怒っているのではないことを悟った。

「おい、どうした」

慌ててなまえを抱きすくめ、表情を見るために顔を上向かせる。
瞳は潤み、息も少し上がって。
熱か、と額に手を当てるがそれすらも嫌がり、熱くはない。
ギンコは目を伏せ、そしておもむろに箱の引き出しを一つずつ開け、中身を確認する。
そして意に介した。

「お前、薬を無断で使ったな」

「……ん」

「バカだな、強壮剤だ」

そんなの知っている、となまえは拙いながらも自分の疲れを取り去るために無断で使用したことを詫びた。

が、ギンコはその答えを聞いて愉快そうにクツクツと笑った。
何が面白いんだとなまえは首を傾げたが、続く彼の言葉に頭をガンと殴られる思いをする。

「そりゃ情交用だ」

「じょっ……!?」

サラリと飛び出す言い分に、なまえも返す言葉が見つからない。
そんなものも持っているのかとなじりたくなるも、今は頭と体がシンクロせず。ズブズブとギンコの胸に沈んでいく。

不可思議の正体が何であるかわかったところで、ギンコは上向いたなまえの頬に手を滑らせて耳元に唇を寄せた。
たったそれだけでも、意識し始めた彼女にとっては大きな快感となる。

ぞくりと背中を這う感覚。
ぎゅうっとギンコの服を掴み、耳に、こめかみに、頬に、顎にと触れる彼の唇に堪えた。

「ギンっ……やっ…」

「楽にしてやるから、力抜いてろ」

「だってっ、声、やだっ…」

「こんなとこ、誰も来やしねえよ」

それは幸か不幸か。
なまえは彼の口車に乗せられていると分かりながらも、快楽を手放すことはできず。
胸元にのぼるギンコの手を振り払うことはできなかった。
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