第1章 蟲師・ギンコ
確かここの段だったと、なまえはギンコの背負っている箱を開いた。
中には紐で括られた真っ白な包装紙が数個。たぶんこれに違いない。
強壮剤、という名目で男性に渡していたのを見ていたので間違いはないはずだ。
体力に不満はないものの、このところ野営が続いているせいかなまえは疲れが溜まっているように感じていた。
ギンコと旅を同じくしているが、薬を分けてもらうのには金が必要。細かいところはちゃっかりしている男だ。
そこで、彼に気づかれないようにくすねてしまおうというわけで。
その薬を飲んだのは数時間前。
今回は宿まではいかないが、廃村にたどり着き、その一角の小屋で夜を明かすこととなった。
そこで異変に気付く。
なんだか妙に体がおかしい。
落ち着かなく、部屋の隅で膝を抱えて丸くなるが収まる気配を見せやしない。ただ、はやる鼓動を押し殺して目を閉じる。
「おい、大丈夫か」
先ほどから同じ体制で全く動かない彼女をおかしく思い、ギンコは肩を掴んだ。
と、びくりと大袈裟なくらいになまえの肩が跳ね上がり、一気にあげられた顔は難しげに額にシワを刻んでいる。
怒っているのか、珍しいこともあるもんだ。とギンコは思い、理由は見当もつかない。
無言のまま距離を置こうとするなまえを無視することもできず、とりあえず隣に腰をおろす。