第2章 血界線戦 ザップ
「帰って」
玄関を指差す。
「何でだよ。別にいいだろー」
ソファーで寛ぐコイツの家ではないことは確かだ。なのに、なんだこの余裕かました態度は。絶対に追い出されないと知っている態度だ。
しかし、今日という今日は負けるわけにはいかない。ダラダラとこんな関係を続けていいわけがない。
なまえはザップの耳をグイッと引っ張って、耳垢が溜まっているのであろう彼に聞こえるように、声を大にして言った。
「かえって!!」
「だー!うっせえ!!」
タバコを吸い殻入れに押し付け、額に青筋を浮き上がらせてなまえを見るザップ。
負けじと彼女も応戦するが、力技に持ち込まれると勝ち目は無いので距離を置く。
真っ白な装丁の彼は、目を細めて威嚇した。が、すぐにニヤリと相好を崩して、腰に手をあてて爪をいじり始める。
「お前、さては寂しいんだろ。俺が他にも女がいるって知ってっからな」
余裕ある言葉がヒラヒラと舞う。
今度は、こちらが苛立ちを見せる番となった。
彼に女が複数いることは知っていた。しかし、それがなんだというのだ。全く関係ない。
そんなことに固執していたと思われるのも甚だしい。彼が死んだ暁には菊の代わりにクチナシの花でも送ってやろう。
褐色の肌に憎たらしいくらい似合う白髪は彼の心とは裏腹に綺麗で、それが更に苛つきが増す。
タバコの吸い殻がこんもりと乗った灰皿を引っ掴み、生ゴミ用のゴミ箱にぶち込み水で濡らす。この匂いも大嫌いだ。
嫌いなものに囲まれ、なまえの怒りもピークを迎えようとしていた。
「早く、帰って。今日は人が来るの」
怒りを押し殺し、タバコ臭くなった部屋を換気するために窓を大きく開ける。夜の喧騒が近くなった。
ざわめく町の声をBGMに、ザップが爪をいじるのをやめて顔を上げた。キツイ目がなまえを捕らえる。
びくりと肩を震わせるが、口からでまかせではない。本当に人は来る。
強気に胸を反らせれば、怪しむように彼の顔が近づいてくる。
「誰だよ。俺がいちゃいけない奴か?」
「そう。だから帰って。いられたら迷惑」
「そいつと二人で何すんだよ。関係はなんだ?家族か、友達か。肉体関係なわけないよな?」
「だとしたら何。あんたが何か言える立場なわけ?」
腕を組み、ふんと鼻を鳴らす。