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ごった煮短篇集

第5章 ストレンヂア・名無し


小さな子どもが転がり込んで来たのが数ヶ月前になる。
街の外れに近いこんな寂れたところになんの用かと驚いたが、続く言葉に血相を変えて飛び出したのが懐かしく感じるくらいだ。
大量の血液を失って冷たくなった体を雪の上に横たえたまま動かない男の体があんなに重いと初めて知った。

医師である父が薬を売りに出かけたすぐあとの事で、とりあえずの応急処置しかできなかったが、それでも小さな男の子は安堵の微笑を見せたものだ。その後すぐに一緒に走ってきたのであろう犬と一緒に寝てしまったので、外で立派な尾を振る馬に水と少しの野菜を分けてやった。

夕方になる頃には父も帰ってきて、当たり前のように驚いていたが男の手当てをしてくれた。
ほかにも、打撲や骨折など酷い傷が多く、一体なにがあったのだろうかと父と首を傾げたものである。

「なまえー!」

高い声が呼ぶ。

笑顔で簡素な馬屋に駆け込んでくる仔太郎。その両手には大量の水が入った大きな桶が抱えられている。海辺で走り回ってきた馬の体が汚れていたので、洗ってやろうかなと呟いたところ、仔太郎が俺もやりたい!と諸手を挙げて賛同してきたのだ。

彼の足元には、ちぎれんばかりにフサフサの尾を振る飛丸もいる。
時折、頭を垂れる馬と鼻面を付き合わせて挨拶を交わしているようにも見える。みんな仲が良い。

「ありがとう。そしたら交代しようか。ほら、これ使いな」

言って、藁を編んだ手入れ道具を渡した。
目をキラキラさせながら、教えられたことを忠実にこなす仔太郎にこちらも頬が緩む。慎重に足元の毛並みにそって腕を動かす姿がかわいらしい。
馬屋の奥にあった踏み台を持ってきてやれば、そこへよじ登って馬の体にも手が届くようになった。

「きもちいいかー。今日は暑かったからなー」

「まだ梅雨にも入っていないのに、こんなに暑くて……日照りが続くと野菜がみんなダメになるね」

「なまえの家の野菜は美味いから、食べられなくなるのは嫌だ」

「ははっ、ありがとう。父さんも喜ぶ」

「あ!飛丸!!」

突然叫んだ仔太郎に驚いたのは私だけでなく馬もだったようで、少し足がバタついた。慌てて仔太郎を抱えあげて馬から離し、大人しい馬でよかったと一息つく。
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