第4章 嫌がらせ
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昼休みが終わり、教室に戻ったわたしは、違和感を感じた。
……クラスの女の子たちが、わたしのほうを見ているような気がした。
不思議に思いつつも、お弁当の包みを片付けて、次の授業の準備をする。
隣の席の一松くんは、いつの間にかいなくなっていた。
また煙草でも吸ってるのかな……と考えながら、教科書を机の上に出す。
そのとき。
「え……?」
わたしは、絶句した。
教科書に赤いマジックで書きなぐられた、文字、文字、文字。
死ね、消えろ、学校来るな、ブス。
そんな文字が、踊っていた。
ぱらぱらと中身をめくってみると、その赤い文字は、中にもびっしりと書かれていた。
くすくす、と女の子たちが笑う。
悲しさとか、悔しさとか、憎しみとか、そんな単純な言葉では言い表せられない感情が、怒涛のように胸の中を渦巻いた。
涙がこみあげてくるが、泣いたら負けな気がして、ぐっと唇を噛んでこらえる。
そのとき。
一松「……どうしたの」
不意に、一松くんの声がして、わたしは、あわてて教科書を机の中に突っ込んで隠した。
一松くんは、すとんと自分の席に座り、手にもっていた大きなおにぎりを口いっぱいに頬張った。
「い、一松くん……」
一松「……ん? なに?」
この様子だと、たぶん、一松くんは教科書を見ていない。
「あの……次の授業の教科書、忘れてきちゃって。だから、見せてくれない?」
一松「……別にいいけど。めずらしいね」
「ははは……朝あわてて家を出たから、机の上に置きっぱなしにしてきちゃったみたい」
一松「ふーん……」
一松くんは、興味がなさそうに呟いて、わたしの机に自分の机を寄せた。